カルト最新情報(2006/10/15)
　　　　　　　　　　　
■最高裁決定の骨子

▽被告の拘置所での動静や医学的な検査結果を総合すると、東京高裁が訴訟能力を肯定したことは正当。
▽控訴趣旨書の提出の遅延に、やむを得ない事情があるとは到底認められない。
▽裁判の打ち切りは、自ら弁護人と意思疎通を図ろうとしなかった被告にも責任があり、不当ではない。
▼189人起訴 13人死刑　無期懲役5人　実刑80人　執行猶予87人　罰金3人　無罪1人 平田、高橋、菊地容疑者は逃亡中。

■ オウム真理教幹部の裁判

確定　二人　林郁夫、一審で無期確定、地下鉄サリン等。
岡崎一明、最高裁で死刑確定、坂本弁護士事件等。
最高裁　九人　横山真人、一審・二審死刑、地下鉄サリン等。
端本悟、一審・二審死刑、松本・地下鉄サリン等。林泰男、一審・二審死刑、地下鉄サリン等。
早川紀代秀、一審・二審死刑、坂本弁護士事件等。
井上嘉浩、二審で死刑、地下鉄サリン等。横田亨、一審・二審死刑、地下鉄サリン等。
広瀬健一、一審・二審死刑、地下鉄サリン等。
新実智光、一審・二審、地下鉄・松本サリン・坂本弁護士事件等。
土屋正実、一審・二審死刑、地下鉄・松本サリン等。
東京高裁　二人　遠藤誠一、一審死刑、地下鉄・松本サリン等。
中川智正、一審死刑、地下鉄・松本サリン・坂本弁護士事件。
教祖松本智津夫、一審・東京地裁、死刑判決(2004年2月)。
東京高裁刑事10部、審理打ち切り(2006年3月)。
東京高裁刑事11部、異議棄却(2006年5月)。
最高裁第三小法廷、特別抗告棄却(2006年9月15日)死刑確定。
10年、実質「一審のみ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(朝日新聞 2006年09月16日朝刊)

■1.「統一教会の“広告塔”

「祝電がいっぱい届いていますが、その中から数個ご紹介を申し上げます。
岸信介元総理大臣のお孫さんでいらっしゃり…」 9月8日の自民党総裁選告示から遡ること約4カ月。
5月13日に『マリンメッセ福岡』(福岡市)で8000人を超える参加者が集まった、ある大会が開かれた。
場内に拍手が鳴り響くなか、会場に届いた祝電を紹介したのは、大塚克巳日本統一教会会長(53歳)。
祝電披露の筆頭に挙がった「岸信介元総理大臣のお孫さん」とは他でもない、総理就任が確実視されている内閣官房長官・安倍晋三(51歳)だった―。
この大会は、社会問題化して久しい「合同結婚式」や「霊感商法」で知られる宗教団体『世界基督教統一神霊協会』(統一教会)の関連団体、『天宙平和連合』(UPF)が主催した合同結婚式を含む宗教集会「祖国郷土還元日本大会」だ。
UPFは、05年に統一教会の教祖・文鮮明(ムンソンミョン)(86歳)と妻の韓鶴子(ハンハクジャ)(63歳)が設立した統一教会の関連団体で、総裁は文鮮明夫婦。
この大会の模様は、5月14日付の統一教会系新聞『世界日報』電子版が報じた。
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〈福岡大会には安倍晋三内閣官房長官と法務大臣を務めた保岡興治衆議院議員など国会議員7人が祝電を送った〉
〈韓日間の民族交流の主役となる両国の男女2500組の合同結婚式も併せて行われた〉
合同結婚式とは、結婚を希望する統一教会信者同士が文鮮明によって相手を決められ、実際に結婚するというものだ。
92年に女優の桜田淳子や元新体操選手の山崎浩子(93年に脱会)が参加して、大騒動になったことをご記憶の方も多いのではないか。
この合同結婚式は近年も深刻な問題をもたらしているという。
長年、統一教会の被害者の弁護活動にも携わり、今年始め韓国で現地調査を行った紀籐正樹弁護士は語る。
「韓国には昨年秋の段階で在韓日本人が約2万1000人いて、そのうち半数以上の1万1000人くらいが統一教会信者というじょいきょうです。
このうち、5000人程度が合同結婚式で結婚した夫婦にできた子どもで、多くの家庭が農村部で貧しい暮らしをしていると聞きます。
日本人女性と結婚するために、結婚相談所に登録する感覚で入信した階層の韓国人男性も多かったからです。
信者は結婚相手を選べませんから、生活レベルが低い韓国人を指名された日本人女性は悲惨な生活を強いられるわけです。
こうした事態は外務省内でも問題視されています。
重大な社会問題をいまだに引き起こしている合同結婚式を含む前述の大会は、福岡の他にも国内で5月24日までに12カ所で開かれ、安倍は14日に広島で行われた大会にも祝電を送っていた。
つまり安倍は、紀籐弁護士が極めて反社会性が強いと問題視する合同結婚式が行われた統一教会系組織の大会に2度にわたって祝電を送っていたのである。
「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の事務局長の山口広弁護士が指摘する。
「統一教会の資金集め、霊感商法による手口が違法であることは、これまでの6件の裁判て認められ、マインドコントロールによる勧誘の手口も最高裁で5回にわたって違法だと確定している。
また、合同結婚式についても、私が担当した事案では、式に信者を参加させること自体が『結婚の自由を侵害するものだ』として、統一教会に慰謝料の支払いを命ずる判決が最高裁で確定しています。
にもかかわらず、活動が改まった様子はまったくない。
官房長官という政権の中枢にいる人間がこうゆう組織に祝電を送ること自体、違法行為を繰り返す団体にお墨付きを与えることであり、到底許すことができません。
次期総理の最有力候補が、毎年巨額の被害を生み続けている統一教会の“広告塔”として利用されていることは非常に由々しき問題です」 安倍と保岡の二人の代議士が祝電を送った事態を重大視した「全国霊感商法対策弁護士連絡会」はすでに6月19日、二人に対し、
①どのような事情で祝電を送ったか
②UPFが統一教会系であることを知っていたか
③公設、私設秘書に統一協会の信者としての経歴を有する者はいないか
などとした「公開質問状」を送付しかが、いまもって何ら回答は来ていない。
ところが、6月20日に『朝日新聞』など大手紙が報じると、安倍事務所は、「私人の立場で地元事務所から『官房長官』の肩書で祝電を送ったとの報告を受けている。
誤解を招きかねない対応であるので、担当者によく注意した」とのコメントをメディア宛に発表。
本誌が改めて、統一教会との関係を質々す(ただす)と、
〈6月にコメントを報道機関に発表済み〉 としたうえで、取材拒否の態度を取ったのだ。
次期総裁の座に就こうとする政治家として、メディアを選別し取材に応じないという見識は、いかがなものだろうか。
統一教会広報部とUPF広報にも安倍との関係を問い質したところ、「答える立場にない」と回答するのみだった。

■2.安倍晋三と勝共連合の共通点

安倍の叔父で今年8月亡くなられた『みずほホールディンズ』元会長・西村正雄(享年73歳)は死の直前まで、私に安倍の政治資質について警鐘を鳴らしていた。
「晋三に影響を与え、周りで利用しているのは、偏狭なナショナリストしかいない。偏狭なナショナリストから離れろ」この「偏狭なナショナリスト」が誰を指すのか、西村氏は具体名を挙げることはなかった。
が、安倍の政権構想に、ある政治団体が大きく影を落としていることは指摘できるだろう。
その団体とは、統一教会系政治団体『国際勝共連合』(以下、勝共連合)だ。
久保木修己(おさみ)が創設した勝共連合は、反共産主義の立場から、保守的な論説を展開する。
久保木は64年に日本統一教会の会長に就き、68年勝共連合を立ち上げた後は、「自主憲法制定」「スパイ防止法制定」などを推進した。
98年に久保木は死去するものの、勝共連合は久保木の遺志を引き継ぎ、「自主憲法制定」「教育基本法改正」「靖国神社参拝は合憲」などと主張し、政治活動を行っている。
統一教会問題に詳しい渡辺博弁護士はこう主張する。
「安倍晋三の政治信条は統一教会の持つ保守的なイデオロギーとも似通っていると言われ、特定の団体の思想に感化されていることは政治家として非常に危険だと考えます」実際に安倍と勝共連合の思想を対比しながら検証してみよう。
久保木には『美しい国　日本の使命』(世界日報社)という遺稿集がある。
安倍の著書『美しい国へ』(文芸春秋)や政権構想パンフレット『美しい国、日本。』とタイトルが酷似していることから、ネット上では「丸写しか」と騒動になった。
両書を読み比べてみると、遺稿集は宗教色の強いものであり、安倍の著書は政治家としての信念が書かれたものだ。
パンフレットにいたってはA4判でたった2ページの政権構想でしかないため、「丸写し」というには無理があるだろう。
しかし、『美しい国　日本の使命』や勝共連合の主張を仔細(しさい)に検討すれば、安倍が発表する政権構想とは多くの共通点があることが判明する。
勝共連合の機関誌『思想新聞』に「憲法改正のポイント」と題された記事が連載されていた。
一連の記事の根底に流れる主張は、戦争放棄をうたった憲法9条を改正して集団的自衛権を認めよというものだ。
集団的自衛権についての安倍の見解は、
〈（集団的自衛権の）権利を有していれば行使できると考える国際社会の通念のなかで、権利はあるが行使できない、とする倫理が、はたしていつまで通用するのだろうか〉(『美しい国へ』）
と疑問を呈したうえで、集団的自衛権の行使について検討機関を設ける意向を明言している。つまり、勝共連合も安倍も、ともに集団的自衛権の保有を主張しているのだ。 また勝共連合と安倍は、教育についての見解も軌(き)を一(いつ)にしている。久保木は『美しい国　日本の使命』でこう語っている。
〈子どもの教育は最終的に親が責任を持たねばなりません〉
一方、安倍は政権構想で、〈家族の価値や地域のあたたかさの再生〉 と掲げ、
〈子どもたちにしっかりした家族のモデルを示すのは、教育の使命ではないだろうか〉と記述している。
両者の主張が瓜二つであることは明白ではないか。
それもあってか、統一教会系週刊誌『サンデー世界日報』9月10日付の記事では、総裁選で優位に立つ安倍の政治姿勢を高く評価している。
〈憲法と教育基本法は国家の理念的根幹をなす二本柱であり、何より先に改正に着手すべき重要課題と考える。その意味で安倍長官の姿勢は大いに評価できる〉
そもそも、安倍と統一教会や勝共連合との深い関係の“源流”は、祖父・岸信介にまで遡る。
統一教会系の雑誌『祝福の家庭』第34号(04年9月発行)には、統一教会の古参幹部・梶栗玄太郎(かじくりげんたろう)の署名記事、「復讐を愛せよ」の中にこのような記述があった。
〈1964年11月、教会幹部が下北沢から南平台に移りました。家主は高峰美枝子氏で、隣家は岸信介邸でした。引っ越しした時、町内会長であった岸先生が、あいさつに来られました。
集まっている青年たちに会い、『あなた方は日本の宝です！』とほめてくださいました。(中略)その後、岸先生とは、自主憲法制定運動とスバイ防止法制定運動で共に活動した仲です〉
　 この件(くだり)が“事実”かどうかは不明だ。
しかし、岸と統一教会や勝共連合との親しい関係を裏付ける事実はある。
岸は73年に文と、75年に久保木と親しく会談しているのだ。さらに、安倍晋三の父・晋太郎には『思想新聞』紙上で勝共推進議員として紹介された過去がある。
■3.祖父の代から続く親密な関係

統一教会元幹部が勝共連合の役割を解説する。
「勝共連合はそもそも文鮮明が自己保身のために作った政治団体です。
特異な宗教活動が韓国で問題になってきたため、これを日本の政治家の力で抑えようとしたわけです。
そのため、自民党に受け入られるように保守的な主張を繰り返してきた。
その思想が安倍さんにスライドして多大な影響を与えたのでしょう」祖父・岸信介を“源流”とし、父・晋太郎から晋三に連なる血脈の陰に統一教会や勝共連合の存在があることを見過ごすことはできない。
前出の渡辺弁護士はこうも語った。
「統一教会は日本の国会議員との関係をつくるために、秘書を国会に送り続けています。
その人数は三ケタを超えるという話もある。
秘書を送り込む目的は文鮮明を『世界の王』にするために、日本の政治家の動向を探ることです」 であれば、「私人の立場で地元事務所から『官房長官』の肩書で祝電を送った」事務所関係者は、統一教会の息の掛かった人間である可能性さえある。
安倍の周囲には統一教会の信者が潜り込んでいるのではないか。
しかしながら、安倍事務所はこの件に関しても、「取材には回答しない」という立場を崩そうとしない。
総裁選が目前に迫り、甘いマスクで国民から断トツの人気を誇る安倍晋三が総理の座に就くことは確実だろう。
統一教会系政治団体の影がさす“危険で中身のないタカ派”政権が誕生することになる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（週刊現代 9月３０日号）